2009年07月08日

それから 悲しい鳥たち

IMG_7741.jpg

また悲しい鳥たちに逢えるかと
森に踏込むと
あのおかしなひらがなとカタカナの鳥たちなんか
どこにも見つからなくて
そのかわりに
キツネがいた
だから私はそのキツネが
鳥たちをたいらげて仕舞ったのではないだろうかと
いぶかしんで
せめてあの
何色か確かめることも出来なかったほど
嘘つきだった鳥たちのきれいなきれいな羽根の
幾許かでも持ち帰れればと探したけれど
何も見つからなかったし
碧の苔はしっとりとしていてやさしくて
その場所でそのような狼藉がはたらかれたとも思えなかった

だから僕は僕を僕と呼ぶことにして
すっかり取り乱してしまった
だって
何が起こったのか分からないし
森はあまりに静かで
誰もなんにも話してくれない
ちゃんと訳さえ話してくれれば
少しは落ち着けるのに
落ち着けたのに

キツネは知らんぷりをしていた
しっぽの間合いでしゃがみ込んで
身繕いをするふりをしてた
それとも本当に僕のことなんか気にかけずに
ただただ身づくろいしていただけだったのだろうか?
やっぱりそれはきれいなきれいなキツネだった
今までに観たことも無いほどにきれいなキツネだったけど
実際に生きたキツネを見るのなんて
僕は初めてだった
そしてやっぱりそのキツネは
きつね色なんかしていなくて
どんなに眼をこらしたって見分けられないような
毛色をしていた
でもそれはあの鳥たちのように嘘つきだからそうなんじゃない
きっとあの悲しい鳥たちを食べて仕舞ったからそうなんだ
そう思った
僕には
それ以外の類推なんか出来なかった

僕はむかっ腹を立てて
唐突に
キツネに殴りかかった
本気で本気で本気で殴りかかった
あんまり本気の時は
ほんとうには力なんか入らない
だけどキツネの右の頬に
確かに当たったんだ

キツネはなのに逃げ出さなかった
ただ
先刻まで僕がしていたであろうような
恨みがましい眼で
じっと僕を視た

その眼を観て
僕は気付いた
怒っているのでも恨んでいるのでも無くて
悲しいんだって気付かないでいたほどに
自分はずっとずっと前から悲しかったんだって気がついて
言った
「あの悲しい鳥たちを食べてしまったの?
 教えてよ 君がなにをしたのか?
 そうだとしたら
 僕は絶対に許したりなんかしない
 でもきっと許す役目の誰かだって居るはずだから
 教えてよ」って

キツネは
僕の知らない言葉で
ゆっくりと話はじめた
その言葉はただの言葉でしかない抑揚なのに
歌のように聴こえた
その言葉は僕の知らない言葉なのに
僕にはわかった

キツネは
ゆっくりとゆっくりと話して
話し終えて
それから
眼をそらして
それから
行ってしまった

僕は
悲しい鳥たちがいないのだったら
キツネにいて欲しかったのに
やっぱり
森には
誰もいなくなって仕舞った

--サヤト・ノヴァ-- 18世紀アルメニア***


ラベル:nuduca
posted by nuduca at 22:30| Comment(0) | 夢の中の懼ろしいこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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